「いい映画だったね」と、仕事仲間がこれ以上ないくらいシンプルな感想を言った。
「映画館で観るべき映画でしたね」と、もう一人の仕事仲間がこれまたありきたりな所感を述べた。
かくいう僕も「映画って本当にいいものだね」と、往年の名セリフしか言うことはなかった。
映画「ボヘミアン・ラプソディ」を観終わったあとの僕らの感想だった。
「ボヘミアン・ラプソディ」は伝説のバンドQueen(クイーン)を題材にした伝記映画だ。
Queenは「We are the Champions」「We Will Rock You」といった多くの名曲で知られるロックバンド。
バンドとしての栄光とともに、ボーカルのフレディ・マーキュリーの生き方に焦点をあてた作品で、同じ人が2度以上観に行く異例のヒットとなっているという。
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人は本当に素晴らしいものに相対したとき、言葉を失う。
東京スカイツリーを前に「わー高いなー」としか言えなくなったり、奈良の大仏を前に「わーデカいなー」としか言えなくなる。そんな感じだ。
瞬間的にボキャブラリーが乏しくなり、大したことが言えなくなってしまう。
映画館を出た後の僕たちも、きっとそんな状態だったんだと思う。
話題の映画だっただけに、映画館に向かう僕たちの胸は高鳴りまくっていた。
期待しすぎるといいことがない。42年間の人生で得た学びの1つだ。だから映画館に入る前に期待値コントロールをし始めた。
「そうはいっても昔ちょっと聴いた時期があるくらいのバンドの話だから」
「そうはいっても俳優さんが演じているだけだから」
そんな予防線を張りながら、期待しすぎないように、期待しすぎないように、と自分に言い聞かせながら席に着いた。
バカバカしかった。
結果的には、オープニングからエンディングまでの2時間強、ずっと心を持っていかれ続けた。
まったく眠たくなることなく、映画の世界に没頭するになった。
ストーリーの大きな流れはQueenの歴史をなぞるものだ。
バンドの結成とデビュー、ヒット連発時代の栄光と解散危機。そこからの復活と伝説のライブイベントでラストを迎える。
Queenに詳しい人からすると知っていることも多いだろうし、Queenを知らない人からしても奇をてらったようなものには映らない。
何に心を持っていかれるのかといえば、フレディとバンドメンバーの人間性がしっかりと描かれ切っている点だと思う。
世界で最も売れたアーティストである彼らが、時に感情的にぶつかりながら試行錯誤を重ね、偶然のひらめきを作品に変えていった様子をつぶさに見ることで、彼らも僕らと同じ人間であることを知ることになる。
特にフレディについては、複雑な生い立ち、容姿へのコンプレックスを乗り越えていく姿や、揺れ動く性的指向を抱え、葛藤しながらも、愛する人たちとの関係性を築いていく姿に心打たれることになる。
作中、彼が口にするこのセリフが、本作を通しての一番のメッセージだと思った。
好きなことを追求し続けること。
自分の存在そのものをパフォーマンスに変えること。
決して妥協をしないこと。
そして、自分が何者かを、自分で決めること。
作品を通して伝わってくる、これらのメッセージは僕たちに「キャリア」や「働き方」のヒントをくれる。
キャリア、働き方、生き方。
ダイバーシティ、チームビルディング、イノベーション。
そんなテーマに触れながら、心を持っていかれ続けて、迎えるラストに、もう一度、打ちのめされに行ってこようかな。
それでは、また。
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