昔はこうだったのに・・・という、すべての人にこの記事を贈ります。
友人の夫婦げんかの話
友人と居酒屋に行ったときのこと。彼の家で最近頻度が増えているという夫婦ケンカの話になった。(あ、犬も食わないやつだ)と思いそうになる気持ちをグッとこらえ、ちゃんと聞くことにした。
聞けば、このごろ奥さんはいつも不満そうで、ことあるごとに文句を言われて嫌になってしまっているという。原因は彼の方でもなんとなくわかっていて、少し前に奥さんに頼まれた家事をうっかりやり忘れてしまったことがきっかけになっているという。
たまたま機嫌が悪かった奥さんから「ほんと”いつも”やってくれないよね」と言われたことに腹を立て、「”いつも”はちゃんとやってるでしょ」と言い返したら、「そんなに恩着せがましく言うなら自分でやるからいいよ、もう頼まないよ」と言われて、それから冷戦状態になっているとのこと。
夫婦ケンカの95%がそうであるように、本件も内容は実に些細なところから始まり、売り言葉に買い言葉的に加熱して険悪になった。お互いそれに気づいているのに意地を張って関係を改善できないでいるようだった。
僕の最初のアドバイスは「本質的な会話」をすること。各論で話していても解決しないので「自分がいかに相手のことを考えて行動しているか」「それを理解してもらいたいと思っているか」「それなのに『いつもやってくれない』と言われてどれだけ悲しかったか」といった本心をきちんと伝えたらどうかと言った。それでも彼は「向こうが勝手に怒ったのだからこちらから助け船を出すつもりはない」という姿勢を崩さない。
「ふーん、じゃあいっそのこと『もう離婚しよう』って言ってみたら?」と提案してみると、さすがに彼もビックリした。「そこまでの問題じゃないし、そんなこと言ったら向こうが本気にしてしまうかも知れないし・・」と言うので「本気にしてもらった方がいいんだよ。『Win-WinまたはNo Deal』だよ」と僕は言った。
「Win-WinまたはNo Deal」とは
「Win-Win」は有名な言葉なので知っている人が多いかと思いますが、「7つの習慣」に出てくる人間関係に対する姿勢のことです。「自分も勝ち、相手も勝つ(それぞれの当事者が欲しい結果を得ること)」という考え方で、両者で相乗効果を生むように双方で努力しましょうという考え方です。
本書では「Win-Win」を含めて、合計6つの考え方があると説かれています。
- 「Win-Win」(自分も勝ち、相手も勝つ)
- 「Win-Lose」(自分が勝ち、相手は負ける)
- 「Lose-Win」(自分が負けて、相手が勝つ)
- 「Lose-Lose」(自分も負けて、相手も負ける)
- 「Win」(自分だけの勝ちを考える)
- 「Win-WinまたはNo Deal」(Win-Winに至らなければ取引きしないことに合意する)
本書によれば、どの態度を取ることが望ましいかは「場合による(ケース・バイ・ケース)」とのこと。
たとえば野球の試合ではどうしても自分のチームが勝って相手のチームが負かすことが目的になるので「Win-Lose」の考え方が正しくなり、自分の利益よりも相手との関係性を維持することが最優先の場合には「Lose-Win」の考え方で相手と接する必要が出てきます。また、わが子の危険など切羽詰まった場面では「Win」の発想しかできなくなるのは避けられません。
ただし、人生のあらゆる局面において「Win-Win」の考え方で人と接していくことが最重要になると書かれています。お互いが協力しあって双方の幸せを目指しましょう、という発想がなければ、中長期的な関係性向上は望めないということです。
それは、結婚生活もそうだし、仕事のプロジェクトチームでも同じことが言えます。どちらの場合も関係者が1つの共同体であり、長い目でみれば共通の目的があって一緒にいるからです。共同体の中で誰かが損しているような状態では、決して高い次元でのパフォーマンスは期待できません。
でも一方で、どうしてもそうした「Win-Win」の関係性を築けない場合もあります。それはそういう相手だったということもあるでしょうし、そういうタイミングだったということもあるでしょうが、人間は不完全な生き物なので、誰とでもいつでもそうした理想的な関係性が築けるわけではありません。
その場合はどうしたらいいかといえば、一段高いレベルでの考え方、「Win-WinまたはNo Deal」を選ぶ必要があります。
「No Deal」とは「合意しないことに合意する」という意味です。
お互いの相乗効果を発揮しましょう、一緒にお互いが勝つ方法を考えましょう、という考え方に合意できない相手、タイミングの場合には、関係性そのものをブレイク(中断)しましょう、という発想です。
仕事ならば「チームの解消」、夫婦ならば「離婚」を意味します。僕が彼に「じゃあ離婚しようよ」と言うことを提案したのは、まさにこの「Win-WinまたはNo Deal」を実行した方がいいという話をしたのでした。
彼は驚き、静かに納得した
それを聞いた友人は、はじめは驚いた。「そんなことを提案したら、向こうは本気にしちゃうんじゃないかな」と心配そうにしている。だから、僕は言ってやった。「本気にしてもらったらいいじゃない」と。
理由は「夫婦関係は離婚によっていつでも解消できる」という当たり前の現実、そしてその選択をした場合に訪れるデメリット(子どものこと、今後の生活のことなど)が他人事ではなく、自分のこととして実感することが必要だと思ったからです。そうした当たり前だけど日常の中では意識しない事実を、きちんと受け止めた上でしか、本当の意味での夫婦の関係性の向上はないと思っているからです。
僕も他人ごとではなくて、我が家でも同じように些細なことからいろいろなケンカがあるし、売り言葉に買い言葉になってしまうこともあるけれど、奥さんに「この結婚は間違いだった」とか言われたときには(これが何度かある)、この本質に立ち返って話すことにしています。
「じゃあ離婚する?本気でその覚悟があって言っている?」と。そう自問も含めて問うことで、いま話していることが本当にそこまでの問題なのか、お互いの関係性というもっとも大切なものを壊すほど大事なことなのか、そうでないならば、なぜそんな話が出てしまうまで意地を張ってしまっているのか、それは本当に馬鹿げたことではないのか、を問うことができ、そしてたいていの場合、そこまでの問題でないことが明らかになるからです。
そして、本気でその覚悟がないのなら、結婚生活そのものへの疑念などさしはさむべきではないし、さかのぼって言えば、そんな覚悟で結婚するべきじゃないということになると思います。
仕事でもそうです。プロジェクトチームであるからには、常にプロジェクトメンバー全員で実現すべき最善の道を考える必要がある場面で、自分の立場や都合でしか意見を言えない人がいた場合、僕は常にこの本質論を持ち出すようにしています。「じゃあこのプロジェクトもうやめますか?」と。
同じように「ええ!」ってなる人もいるけれど、それでいいと思っています。大切なのは「常に本質に立ち返って、いま本当にやるべきこと、やるべきでないこと」が関係者全員で共通認識を持つことだと思っています。
そういう意味では、仕事でも家庭でも「本気で相手に取り組むか、それができないならばやめちまうか」のどちらかなんだと思っています。人生とは自分で決断し、その結果に責任を取ることの連続だと思いますので、「やるならやる、やらないならやらない」を自分で決めて、決めたことや決めた相手にとことんコミットすること。それしかないと考えています。
それでは、また。
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